今回は溝(みぞ)です。
え?溝だって?
はい、溝ですミゾ。
W140にはフロントガラスの両サイドから屋根をつたって、リアガラスの下端まで
深く彫り込まれた溝が設けられています。
降雨の際、ワイパーで拭われた雨水はこの溝に流れ込むという仕掛け。
もちろん屋根に降った雨水も溝に集まり、ボンネットやトランクの先端から排出されます。
つまり、サイドガラスに流れ落ちてこないという。
おまけにAピラー(フロントガラス左右の柱)には空力処理が施されていて
走行中に前方から降ってくる雨も、風の力を借りてサイドガラスへの付着を避けるように設計されているのですね。
凄いなぁ。
W140が現役だった頃のメルセデスは
この画像にあるように、露骨に溝を見せていました。
それは不器用だったのか、あえてアピールをしていたのかは知る由もありません。
メルセデスの場合、こういった視界確保に関わる部分については
技術の進歩なのか、幾分スマートな処理になっているような気がするものの
現在のモデルにもしっかりと受け継がれています。
そんな視界確保へのこだわりを見せながらも
エレガントに見える傾斜角の強い小さな窓ガラスを採用している現在のモデルたちを見ていると
何やら矛盾めいていて、さも営業サイドと技術サイドが社内で格闘し、せめぎ合っている風景が浮かんでくるのです。
雨の日のドライブ。
鮮明な視界を保つW140の大きなサイドガラスが、柱の造形と彫り込まれた溝の恩恵によるものであると気づくに連れ
つくづく自分たちの思想と存在意義を頑なに信じ、それを技術(能力)で表明することこそが企業の在るべき姿ではないのか
そして営業が売るべきは商品ではなく、その信念であるべきはずなのだと思わざるを得ません。
そんなあれやこれやを無言で語りかけてくるW140に、感心することしきりの毎日なのであります。