中村さんは京都で個人タクシーを営まれていらっしゃいます。
彼の営業車両は、京都のタクシーでは僅か7台しか導入されていないというトヨタ・センチュリー。
最近、20年ぶりに3代目へとモデルチェンジをしましたが
私はこの先代(2代目)モデルの方が控えめで慎ましくて、和製高級乗用車として好ましく思っています。
まぁそれはさておき
中村さんのセンチュリー以外の6台は、いわゆる完全予約制の観光車両
もしくは施設送迎専用の提携車両なので、一般客は利用できません。
つまり、京都で手を上げて停まってくれるのは彼のセンチュリーただ1台ということになります。
考えてみたら、私がセンチュリーに乗ったのは
中村さんのクルマが最初でした。
「これ、いま何万キロですか?」
「11万キロです」
「へー11万キロなんですね…って11万キロ⁉︎」
「(笑)はい」
毎日毎日長時間、エンジンもエアコンも回りっぱなしで
あのデカさ、あの重さでストップ&ゴーの繰り返しに加え
京都特有の狭い道ではハンドルもタイヤもゴリゴリにこじられてるはずなのに
それで11万キロ走って無振動・無騒音ですから。
それに毎日誰かを乗せて酷使されているリアシートだってパンパンに跳ね返ってくるではありませんか。
おそるべし精度。
おそるべし耐久性。
おそるべしトヨタ、いや関東自動車工業と部品供給メーカーの匠の皆さん。
すごいぞセンチュリー。
えらいぞセンチュリー。
…冷静になりましょう。
このセンチュリーのプライスは約1000万円だったのですが、某ドイツの『世界で最初に自動車を発明』した会社の重役がこのクルマを見た時
『もしこのクルマを我々が作ったら、3000万は下らないだろう』と、シャッポを脱いだそうです。
そして、ある雑誌の企画でも
センチュリーの部品を納めておられる主要サプライヤー企業を訪問し
製造されている部品のすべてが、通常の5倍〜10倍もの手間をかけた手工芸品レベルであるにも関わらず
『我々はセンチュリーの部品を納めさせていただけるだけで光栄・名誉』だと感謝し
標準値の1.2〜1.5倍ぐらいという割に合わない金額しか請求をしていないことが判明。
やはりセンチュリーは3000万円以上するクルマなんだということが類推されたのです。
閑話休題。
ともあれ、センチュリーをこよなく愛する中村さんと
センチュリーのクラフトマンシップにいたく感心した私が打ち解けるのに、そう時間はかかりませんでした。
スラリとした出で立ちに物腰が柔らかく話もお上手で、なによりお客様にどうしたら喜んでいただけるかを考えてばかりいる人。
そういえば、京都市内でお客様を乗せた中村さんのセンチュリーを何度かお見かけしたことがありますが
どのお客様も例外なく、薄いグリーンの窓ガラスの向こうで優しい笑顔をされていました。
以来、私も大切な人を京都にお連れする際
いつも中村さんとセンチュリーに甘えてしまっていることは云うまでもありません。