「次はいつ来れんの?事前に連絡くれたら、あなたの好きな白身フライのタルタル作っといてあげる」
いつもリクエストすると
「あのタルタル作るの、面倒臭いのよねー」なんて言ってたくせに(笑)
「だって東京離れて、年に数回しか来てくれないじゃない」
私の友人が代表を務めている、某英国製高級オーディオの日本総代理店に野暮用で遊びにいった帰り
彼のオフィスの斜め前に小料理屋があることに気づいたのがこの店
いや、おかーさんとの最初の出会いでした。
ちょうどお腹も減っていた私は迷うことなく暖簾をくぐり、カウンターに腰掛けたのですね。
目の前には大皿に盛られた鳥の唐揚げが。
これを頼まない手はありません。
お、美味しい。
こんなに美味しい唐揚げは初めてじゃないか、と思うくらい本当に美味しい。
トイレに入ると、決して新しくもお洒落でもないのだけれど
花なんかが生けてあって、小綺麗にされていて
なんかこう、お客さんをもてなしたい気持ちで溢れているようなトイレです。
『また来たいなぁ』なんて思ってたんですが、当時の職場(渋谷)からだとチト遠い。
その数年後、私は転職。
新しい職場からだと、先の友人のオフィスがほど近いことに気付きました。
つまり、あの小料理屋も近いってことか。
「あらぁー、また来てくれたの」
「えぇー、憶えてくれてたんですか」
「そりゃあんなに美味しい美味しい言われたら憶えてるわよぉ」
「実はすぐそこの会社に転職して来たんですよ」
そこから、取り憑かれたように毎日毎日ランチに通うこととなり
唐揚げの他には、前述の白身フライのタルタルソースや
シチューなんかがお気に入りのメニューとなりました。
「今でもあなたがいた会社の人たちが通ってくれるの。
あなたに教えてもらった、勧められた、連れてきてもらったって
時々話題になってんのよ」
その店は会社の隣にある神社を通り抜け、長く急な階段を降りたら
クルマの往来が激しく横断歩道の無い道路を小走りで渡って路地に入っていくという、少しアクロバティックなアクセスを必要とします。
実際、新しい職場では誰も利用してませんでした(グループ会社の飲食店が、近くに何軒もあったし)
けれど転職したてで、変なしがらみもない私は
上司・同僚・お取引先さん・友人…それはそれは色んな人を連れて行く。
それにつれ次第に評判はクチコミで社内に広まり、いつしかお昼時はうちの社員でいっぱいになっていたんですね。
それが会社を卒業してから10年近く経った今でも、続いているのだそう。
「ほんと、あなたのおかげよぉ。」
自分でも気付かぬうちに「お役に立てていた」と実感する瞬間でした。
このひと言が、素直に嬉しいと感じれる歳になったということかな。
ご縁とは、つくづく商売の本質。
おかーさん、また行くからね。