N工業。
知る人ぞ知る、自動車用ボディカバーメーカーの老舗にして雄であります。
一般的にボディカバーというと、汎用品が多勢を占め
また「車種専用」を謳っていても、メーカーが公表する外寸より大きめに作り
すっぽりとボディに被せるだけ、というお気楽な製品が多いのですが
同社プロダクトの特徴は、自動車スタイリングに於ける膨らみ・くぼみ・うねり・突起などの寸法公表がされていない『造形』に対し
実車から採寸し、型を起こす『現物合わせ』といった手法によって
「被せる」ではなく、どちらかというと「着せる」に近いボディカバーを作り込んでいる点にあります。
車種によってはエアロパーツの有無などにより、グレードごとに寸法が微妙~大幅に異なる場合もあるのですが
微妙な差異のケースなら大きい方に合わせて作ればさほどの問題はありません。
しかしながら、ほとんどのメーカーでは大幅に異なるケースでも対応できるように「あらかじめブカブカに設えておく」というのが業界の、いや、世の常というもの。
ところがですよ。
同社ではサイズが大幅に異なる場合だと、各タイプそれぞれを実車から採寸し
クオリティの高い製品をラインナップするといった徹底ぶりで、そのフィット感は他社の追従を許しません。
悩みのタネは、採寸の素材(つまり実車)が都合よく揃わないということ。
そこで、採寸サンプルの協力者には
出来上がった第1号のボディカバーを、御礼としてプレゼントするのとホームページに書かれています。
もちろん彼らが求める車種/グレードでなければ、ようするに既に採寸済みのクルマならば土俵には登れません。
同ホームページに、サンプル車種のリクエストが掲載されていました。
ラッキーなことに、多種のモデル名が列記されている中で
我が旗艦の型番たる『W(V)221メルセデスSクラスロング』の名称が記載されているではありませんか。
早速、メールを送ってみたのですが。
『あいにく、同車種のAMGグレード(僅かに寸法が違う)を希望しているので期待には沿えない』
との回答が届きました。
加えて、そのメールには
『他にもクルマを所有しているなら、参考までに教えてほしい』
とあります。
すぐさま
『他にはW(V)140ロングとW126標準、それに17系クラウンを所有している』
と答えたところ、意外にもクラシックに片足を突っ込んだ旧いベンツ2台に食いついてこられたのですね。
以下、メールでのやり取り内容。
N工業:『よかったらW140とW126を採寸させてほしい』
私:『なぜ?この2車種といえば当時は流通数も多く、サンプルには困らなかったはず。しかも老舗である貴社であれば、とっくに採寸は済ませているのでは?』
N工業:『もちろんその通り。しかし、この2車種は採寸した時代・技術共に古く、出来栄えに納得していない。最新の技術で作り直したいと思っていたのだが、素材がなかったので諦めていた。協力してほしい』
私:『あいわかった。お役に立てるというなら喜んで協力させていただく。しかし、採寸にはどれくらい時間を要するのか?』
N工業:『その気になれば数時間でも可能だ。しかし我々としては納得のいくモノを作りたいので、数日間預けてもらえると嬉しい。もちろん、出来上がったカバーはプレゼントする』
私:『預けるのは構わないが、帰りの足が欲しい。代車は出せるか?』
N工業:『もちろん用意させていただく』
私:『それは助かる』
N工業:『希望のオプションはあるか?ガレージのタイプによって様々なオプションを用意しているが、誤った使用だと逆効果となるケースもある』
私:『プロじゃないので分からない。ガレージの画像を送るので、それを見て判断してほしい』
N工業:『素晴らしいガレージだ』
私:『ありがとう。ご覧の通り鉄筋コンクリート構造で、大型の屋根を備えてはいるが、日差し、風、雨、湿気を完璧に遮断しているわけではない』
N工業:『このガレージに適応した最高のカバーを仕立てることを約束する。もちろん、カバーの裏地には起毛タイプを奢ろう』
私:『甘えてばかりでは申し訳ないのでW221用のカバーを買う』
N工業:『いや、W221も含め3車種全てのカバーをプレゼントさせていただきたい』
私:『なぜか?』
N工業:『AMG用を作っておけば、ノーマルにも対応できる。当社とすれば効率を考えていたのだ』
私:『それは理解している。なのになぜそうしない?』
N工業:『正直、あのガレージならカバーなんて要らないはずだ。プレゼント、つまり”タダで貰えるなら”と思って申し込んだのだろう。違うか?』
私:『それもあるが、製品の仕上がりへの興味の方が大きい』
N工業:『ならば140と126がプレゼントされると分かった以上、貴殿は美味しい思いだけできる状態にある』
私:『その通りだ』
N工業:『しかも、我々はリクエストページにAMGと追記していなかった』
私:『たしかに表記しておくべきだったとは思う』
N工業:『あれは我々のミスだ。それなのに貴殿はクレームをつけるどころか、義理を重んじて”買う”と言ってくれた。そういう人間は少ない』
私:『ミスは誰にでもあるし、そんなことでご縁を無くしたくはない。ご縁と義理は大切だから』
N工業:『そんな貴殿を気に入ったのだ。今この瞬間、W221ロング用を2種類作ると決めた』
私:『いや、さすがにそれは申し訳ない』
N工業:『ダメだ。私のプライドに火がついた。それに、当社にもメリットがないわけではない。どうか作らせてくれ』
私:『わかった。いつ行けばいい?』
N工業:『あいにく今月は全て埋まっている。来月にフルフルで採寸スペースを空けておくから、いつでも都合のいい日を見つけて来てくれ』
私:『神だな』
N工業:『貴殿こそ』
私:『会うのが楽しみだ』
N工業:『私もだ』
な、なんだこの会社。
おそるべし、N工業。
いや、おそるべしは(おそらく社長の)Nさん。
その後、1台目を届けて代車で帰ってくる。
↓
数日後に2台目を届けて、採寸が完了した1台目に乗って帰ってくる。
↓
その数日後、3台目を届けて採寸が完了した2台目で帰ってくる。
↓
さらにその数日後、代車に乗って採寸が完了した3台目で帰ってくる。
こうしてひょんな好奇心から始まった『N工業詣』は、実に4往復を数えることになったわけです。
仕上がったカバーのレポートは追って。
※画像は同社ホームページより抜粋