アクティブサスペンションのスタビリティに魅せられて
W221のメルセデスベンツS600ロング
G50の日産インフィニティQ45
の油圧サスコンビを同時所有するという暴挙を犯していた頃の話。
S600は2190kg。
Q45は1830kg。
その差は360kgですね。
これが同じ360kg差でも
1kgと361kgの比較なら、それはそれは次元が違うと誰だってそう思うでしょう。
しかし、コトは2190kgと1830kgの比較の話です。
どちらも自動車としてはヘビー級。
タイガーマスクVSアンドレ・ザ・ジャイアント
ではなく
みたいなもので
初めは、まあそんなもん大して変わらないだろうぐらいにタカをくくっていましたが
両車を乗り比べてみると明らかに別モノ。
S600は毎回あざ笑うように360kgを圧倒的な質量の差としてまざまざと見せつけてくれました。
考えてもみれば、そりゃそうだ。
だって自動車は停車中以外は常に運動をしているのですから。
前進、後進、登り、下り、旋回、加速、減速、バウンド、停止…運動中は重心が四六時中、あっちこっちに移動してるわけで。
これが慣性モーメントというやつが発生する原因です、なんて説明すると余計にややこしい。
わかりやすい説明…わかりやすい説明…うーん…
あ、そうそう。
あなたは今、ペットボトルのミネラルウォーターを片手に持ちながら歩行してるとしましょう。
満タン時よりも飲みかけの状態の方が、ボトルの中で水が暴れて重く感じるはずです。
なんですって?
いやホント、そうなんです。
嘘だと思うならそれぞれ1本ずつ両手に持って歩いてみてください。
不思議なことに重いけど暴れないボトルより、軽くても暴れるボトルの方が重く感じるはずです。
そしてもちろん暴れるボトル同士なら、重たいボトルの方がより重く感じる。
2190kgと1830kgを暴れさせた時に感じた重さの違いとは、つまりそういうことなのだと理解しました。
ところがですね。
ところがですよ。
ちょっと一般的平々凡々な想像を逸脱するような経験をしたのですね。
我がS600の2190kgに対し、マイバッハは2350kgと160kg重い。
しかも全長に至っては20cm以上も長いですから、それだけ好き勝手に暴れ回れる公園が広いというわけです。
「こいつはスーパーヘビー級のS600よりも、さらにデカくて長くて重たいウルトラヘビー級なんだ」
寺院での参拝よろしく、こころしてエンジンをスタートさせ、ステアリングを握り、注意深くアクセルを軽く踏んでみます。
ススス…
「あれ?」
さらに踏んでみます。
スルスルスルーーー
「あれれ?」
ステアリングを切ってみました。
ヒラヒラヒラーーー
「あれれ?おやや?」
私のS600よりも軽い。
むしろ感覚としてはQ45に近い。
アタマが混んがらがった。
自動車としての挙動は、小さいよりも大きい方が、軽いよりも重い方が、S600よりもマイバッハの方が圧倒的に不利なはず。
それが520kgも軽く、36cmも短いQ45に近い感覚だなんて。
いや、各種デバイスやセッティングの問題なんかではないです。
これはパッケージングがただ事ではないのだ、そう感じました。
特に先っちょ(前後端)の軽量化と嵩張る部品の最適な三次元配置。
のんきにSクラスボディをストレッチしただけの、短絡的・安直的な設計をしていたら
絶対にこんな挙動にはなりません。
マイバッハに乗って感心したのは広大なインテリアや豪奢な設え、パワフルな動力源や滑らかな変速、超絶ハイテクなデバイスや吟味されたマテリアルなどではなく
長きに渡り、超大型車の設計・生産にあたって蓄積をしてきたメルセデスのノウハウそのものに対してでした。
ダックスフンドよろしく胴長な自動車を作っておきながら、ふた回り小さなサイズのようにまともに走らせる技術。
さすがは1886年に、世界で最初に自動車を作った会社だなぁと思いました。
さらにその後、ダックスフンドより1m以上も胴の長いウナギイヌのようなマイバッハ・プルマンも発表されましたが、このリムジンも物理の法則に逆らうかのような動きをするのでしょうか。
いずれにせよ両車共、今の私の生活には無縁のプロダクトなのですが(だってあんな長いの駐めるとこないですからね)
なお、復路はマイバッハの特等席であるリアシートに身を委ね、快適至極の試乗タイムを満喫させていただきました。